数年前、とある街の骨董屋のガラスケースの中に、いくつかの懐中時計がありました。当時私はまだ懐中時計の何たるかをよく解っておらず、ただ古い時計だな〜っと店に顔を出しても眺めているばかりでした。当然懐中時計の価格的な相場にも疎く、それが高いか、安いかも判断できなかったのでした。それから少しずつ興味を持ちはじめ、メーカーぐらいは解るようになったのですが、その時以前からガラスケースの中で気になっていた懐中時計がJ・W・ベンソンでした。シルバーのハンターケースで中に刻まれているホールマークでは1860年代であることがわかりました。しかし、購入するには今ひとつ勇気がなく、とまどっていたのですが、なんせ、店で発見して依頼、半年は経過していたのでまず売れないだろうと、勝手に決め込んでいたのですが、よくよく調べてみると、まだベンソンが王室御用達になる前のものであり、貴重な物である事も解ってきました。そして私は余裕をもって、店を尋ねてみたのです。そしてガラスケースの中を覗き込むと、「・・・あれ???」ない??いつもの場所にあったあの懐中時計がない・・・慌てて私は主人に聞きました。「いつもここにあったあの時計が無いみたいだけど・・?」主人「ああ・・あれ・・あれね・・昨日男性の方がきてそのまますぐ買っていかれましたよ・・」。
私は失意のどん底に突き落とされた気分でした。。半年も売れなかったのに、なんで調べて気に入ったあげく購入前日に売れるのでしょうか!人の気持ちをもてあそぶようなこのタイミングの悪さを恨みました。そして主人は私の顔を見ていいました。。「出会いだよ・・出会い・・縁がなかったんだよ・・・」。それ以来、J.W.BENSONには特別な気持ちを抱き続け、そして数年後、今回のBENSONに新たに出会う事ができたのです。当然迷いは無く購入しました。思い出深い逸品の一つになった懐中時計です。


   


J.W BENSONについては、他のページでも触れておりますが、王室御用達を賜っているメーカです。タイプ別には”BANK”、”FIELD”、LUDGATE"、という三タイプ別にグレードが存在します。これはハイグレードであるLUDGATEタイプで石数はおそらく15石前後と思われます。3/4プレート、イングリッシュレバー脱進機、鍵巻き、鍵合わせ式という、まさに懐中時計の英国スタイルみたいなものですね。ムーブメントの受板には"WARRANT TO.H.M.THE QUEEN"の文字が刻まれています。18K無垢のどっしりとした重量感があり、持っていても緊張感が伴います(笑)。BENSONは1900年代にはいってからは、その製作をスイスに移しましたが、ロンドンで製作していた頃の物はホールマークを見れば判断できます。ホールマークについての判断は”COMPLETE PRICE GUIDE TO WATCHES 2001”を参考にしました。専門書も出ているとは思いますが、この本にはポケットウォッチからリストウォッチまでの状態による相場価格が明記されており、購入を検討されてる方には参考になるものだと思います。アマゾンCOMでも購入できると思いますので是非お手元にあると便利かと思います。
ホールマークにはタウンマークとデイトマークが刻印され、このBENSONもしかりタウンマークの(豹顔)からロンドンの商工組合で発行された物であるのが判別できます。他にもバーミンガム、チェスター、エジンバラ、ダブリン、グラスゴー等の組合が管理しているものもあります。年代はデイトマークで判断しますが長年の使用により、擦り減り判別に難しいこともしばしばありますので注意が必要です。その他に18Kを表す刻印もあり、イギリス物はだいたい判断が出来ます。
深夜机上でコチコチとゆっくり刻む音は心なごみます。

3/4プレートムーブメント   ホールマーク